実務上の判断における5つのポイント
実務上、5つのポイントを総合的に勘案し給与所得か事業所得かを判断します。
①代替性の有無
他人が代替し業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか
雇用契約に基づく給与の場合、雇用された者は自分自身が仕事をすることで、その役務の対価を受け取ることができます。一方、請負契約に基づく事業所得の場合、依頼主との間で仕事の期限や代金等を決定すれば、実際の仕事は必ずしも請け負った者自身に限らず、自己が雇用する第三者に任せることができます。
役務提供者が契約当事者に限定され、他の者が当事者に代わり役務提供できない場合や、本人が自らの判断で第三者を使うことが認められていない場合は、代替性が無いといえ、給与所得の該当性を強めるといえます。
②拘束性の有無
報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束を受けるかどうか
勤務する日や就業時間が決められていたり、出勤簿、タイムカード又は本人からの報告等で就業時間が管理されていたりする場合には、時間的拘束があるといえ、給与所得の該当性を強めます。
③指揮監督の有無
業務の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く)を受けるかどうか
雇用契約の場合、雇用主が定める就業規則に従わなければならず、作業現場には監督者等がいて、個々の作業について指揮命令をするのが一般的です。一方、請負契約の場合、仕事の期限さえ守れば途中における進行度合いや手順等について、依頼主から特に指図を受けることがないのが通常です。
仕様書、設計図、指示書等の交付により作業の具体的内容や方法が指示されており、業務の遂行が使用者の具体的な指揮命令を受けて行われている場合は、給与所得の該当性を強めるといえます。
④報酬請求権の有無
不可抗力のため業務が完了しない場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか
請負契約の場合、引渡しを終えていない完成品が、例えば災害等で滅失して期限までに依頼主に納品できない場合は、一般的には報酬の支払を受けることができません。 一方、雇用契約の場合、労務の提供を行えば結果に関係なく報酬の対価を請求できます。
報酬が役務の結果による較差が少なく、業務の量に応じて支払われるなどして、その報酬の性質が支払者の指揮監督の下に一定時間労務を提供する場合には給与所得の該当性を強めるといえます。
⑤材料又は用具等の供与の有無
業務に必要な材料又は用具等を報酬の支払者から供与されているかどうか
雇用契約の場合は雇用主が材料又は用具等を所得者に支給しますが、請負契約の場合は所得者が材料又は用具等を自分で用意するのが一般的です。
例えば、据置式の工具など高価な器具を所有しており、労務にこれを使用している場合には、事業所得の該当性を強めるといえます。
◀給与所得及び事業所得の判定検討表▶
判定項目 |
給与 |
事業 |
当該契約内容が他人の代替を容れるか |
NO |
YES |
仕事の遂行に当たり個々の作業について指揮監督を受けるか |
YES |
NO |
まだ引渡しを終わっていない完成品が不可抗力のため滅失した場合等において、その者が権利として報酬の請求をなすことができるか |
YES |
NO |
材料が提供されているか |
YES |
NO |
作業用具が供与されているか |
YES |
NO |
雇用契約又はこれに準ずる契約等に基づいているか |
YES |
NO |
使用者の指揮命令に服して提供した役務か |
YES |
NO |
使用者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受けているか |
YES |
NO |
継続的ないし断続的に労務の又は役務の提供があるか |
YES |
NO |
自己の計算と危険において、独立して営まれているか |
NO |
YES |
営利性、有償性を有しているか |
NO |
YES |
反復継続して遂行する意思があるか |
NO |
YES |
社会的地位が客観的に認められる業務か |
NO |
YES |
その他の判定事項の例 |
労働基準法の適用を受けるか |
YES |
NO |
支払者が作成している組織図・配席図に記載があるか |
YES |
NO |
役職(部長、課長等)があるか |
YES |
NO |
服務規程に従うこととされているか |
YES |
NO |
有給休暇制度はあるか |
YES |
NO |
他の従業員と同様の福利厚生を受けることができるか(社宅の貸与、結婚祝金、レクリエーション、健康診断等) |
YES |
NO |
通勤手当の支給を受けているか |
YES |
NO |
他の従業員と同様の手当てを受けることが可能か(住居手当、家族手当等) |
YES |
NO |
時間外(残業)手当、賞与の制度はあるか |
YES |
NO |
退職金の支給の対象とされているか |
YES |
NO |
労働組合に加入できる者であるか |
YES |
NO |
支払者からユニフォーム、制服等が支給(貸与)されているか |
YES |
NO |
名刺、名札、名簿等において支払者に帰属しているようになっているか |
YES |
NO |
支払いを受ける者の提供する労務が許認可を要する業務の場合、本人は資格を有しているか(例 運送業) |
NO |
YES |
その業務に係る材料等の在庫を自己で保管しているか |
NO |
YES |
報酬について値引き、値上げ等の判断を行うことができるか |
NO |
YES |
その対価の支払者以外の顧客を有しているか |
NO |
YES |
以前にも他の支払者のもとで同様な業務を行っていたか |
NO |
YES |
店舗を有し一般客の求めに応じているものであるか |
NO |
YES |
その対価の支払者以外の者からの受注を受けることが禁止されているか |
YES |
NO |
同業者団体の加入者であるか |
NO |
YES |
使用人を有している者であるか |
NO |
YES |
支払いを受ける者がその業務について自己の負担で損害保険等に加入しているか |
NO |
YES |
業務に当たって、支払者側のマニュアルに従うこととされているか |
YES |
NO |
支払者の作ったスケジュールに従うこととされているか |
YES |
NO |
業務の遂行の手順、方法などの判断は本人が行うか |
NO |
YES |
本来の請負業務のほか、支払者の依頼・命令により、他の業務を行うことがあるか |
YES |
NO |
勤務時間の指定はあるか |
YES |
NO |
勤務場所の指定はあるか |
YES |
NO |
旅費、交通費を会社が負担しているか |
YES |
NO |
報酬の最低保障があるか |
YES |
NO |
遅刻、無断欠勤の場合、それに見合う報酬が支払われないほか罰金(報酬の減額)があるか |
NO |
YES |
その対価に係る請求書等の作成がされているか |
NO |
YES |
その対価が材料代等の実費とそれ以外に区分して請求されるか |
YES |
NO |
その対価が経費分も含めて一括で請求されているか |
NO |
YES |
“検討表”は項目ごとに該当するか否かを選び、「給与」か「外注費」、いずれの性質を帯びるかの指標となりますが、YESやNOの数で単純に判定できるものではなく、これら項目はあくまでも例示です。総合的にみて所得区分を判断する必要があります。
※詳しくは、笠原会計事務所まで、お気軽にお問い合わせください。
|